論理学で学ぶ数学 Theme4
問題
「すべての実数 に対して が成り立つための実数 の条件を求めよ」という問題に、次の解答があった。
(A) すべての実数 に対して が成り立つ。
(B) これは、すべての実数 に対して
が成り立つことと同値である。
(C) したがって、
が成り立つか、または
が成り立つことと同値である。
(D) そのためには
が成り立つことが必要十分である。
(E) これらをまとめて、求める条件は である。
この解答には誤りがある。間違っている部分を指摘してその理由を明らかにし、正しい解答を書け。
答案
誤っているのは (C) である。
とおく。(B) は
であり、(C) は
である。(B) から (C) への変形は
を用いているが、これは一般には成り立たない。
実際、 のとき、各実数 に対し より は成り立つから (B) は真である。一方
もともに偽だから (C) は偽である。よって (B) から (C) への変形は誤りである。
以下、正しい解答を与える。求める条件は
である。展開して
を の式とみる。
のとき。(定数)であるから、すべての実数 に対し となる必要十分条件は
である。
のとき。 だから上の式は について下に凸な二次式であり、判別式を とすると
である。下に凸な二次式がすべての実数 で となる必要十分条件は であるから
を得る。実際、 のとき で条件を満たす。
以上 より、求める条件は
である。
Point
今回の主役は、量化記号 を論理和 ・論理積 に対してどう動かせるか、です。Theme3 で見た「 は に分配できない」の、ちょうど裏返しにあたります。
は に分配できない
誤答は
と書き換えました。
前者は「各 ごとに、 か のどちらかが成り立てばよい」という意味です。どちらが効くかは によって入れかわってかまいません。後者は「すべての で一様に 」か「すべての で一様に 」のいずれか、というずっと強い主張です。
今回は の符号で の符号が入れかわりうるので、 によらず一方に固定する後者は成り立ちません。答案の がその実例でした。各 で都合よく と を使い分けてよいかどうかが、両者を分けています。

成り立つ向きは一つだけ
とはいえ、両者は無関係ではありません。一方向だけは常に成り立ちます。
「全部で 」または「全部で 」なら、各 で確かに「 または 」だからです。誤答は、この成り立つ向き()ではなく、成り立たない逆向き()を使ってしまった、というのが誤りの正体です。
同じ問題に「分配できる 」が隠れている
おもしろいのは、分配してよい場合も同じ問題に顔を出していることです。 自身は連立、つまり論理積でした。
こちらを で受けるときは、
と、 を には自由に分配できます。両方を全 で要求するのと、各々を全 で要求するのは、同じことだからです。同じ問題の中で、 は内側の には分配できるのに、外側の には分配できない。この問題ならではの対比です。
場合分けは「 の分配」ではない
正しい解答も、最後は
という論理和の形になりました。「 を に分配してはいけないと言ったのに、答えが論理和なのは矛盾では」と気になるかもしれません。しかしこれは分配とは別物です。
場合分けがしているのは、つねに正しい で2通りに割ることです。式にすると
となります。注目したいのは、 が両方の枝にそっくりそのまま残っていることです。 は の中へ割り込んでいません。そのうえで、左の枝では から が に、右の枝では から に変わり、 に至ります。
これに対して誤答は
と、 そのものを割って を内側へ送り込んでいます。割っている文字が違うことに注意してください。場合分けで にしているのは、求めたいパラメータ ( に縛られていない自由な文字)についての排反な2通りで、これはいつでも安全です。一方、誤答が に分配しようとしたのは が縛っている で、こちらは許されません。
同じ論理和でも、枠ごと保つ前者と中身を割る後者は、まったく別の操作なのです。
Theme3 との双対
量化記号と結合子の組み合わせを並べると、次のようになります。
と 、 と は相性のよい組み合わせで、 で自由に行き来できます。「すべて」と「かつ」はどちらも全部そろうことを求め、「ある」と「または」はどれか一つあればよい——求めるものの性質がそろっているからです。一方、相手の違う と 、 と は一方向だけ。Theme3 の主役は 3 行目(まとめた側 分けた側)、今回の主役は 2 行目(分けた側 まとめた側)で、成り立つ向きがちょうど逆になっています。
そして「どちらの選言肢が効くかは ごとに変わってよい」というこの感覚は、次の Theme5 へまっすぐ続きます。 の取り方ごとに相手を選び直してよいのか、それとも一つで全部を賄わなければならないのか——量化記号を二つ重ねたときの、順序の話です。