今回の主役は、量化記号 ∀ を論理和 ∨・論理積 ∧ に対してどう動かせるか、です。Theme3 で見た「∃ は ∧ に分配できない」の、ちょうど裏返しにあたります。
∀ は ∨ に分配できない
誤答は
∀x, (P(x)∨Q(x))を(∀x, P(x))∨(∀x, Q(x))
と書き換えました。
前者は「各 x ごとに、P(x) か Q(x) のどちらかが成り立てばよい」という意味です。どちらが効くかは x によって入れかわってかまいません。後者は「すべての x で一様に P」か「すべての x で一様に Q」のいずれか、というずっと強い主張です。
今回は x の符号で ax+b, ax+c の符号が入れかわりうるので、x によらず一方に固定する後者は成り立ちません。答案の a=1, b=c=0 がその実例でした。各 x で都合よく ≥ と ≤ を使い分けてよいかどうかが、両者を分けています。
成り立つ向きは一つだけ
とはいえ、両者は無関係ではありません。一方向だけは常に成り立ちます。
(∀x, P(x))∨(∀x, Q(x))⟹∀x, (P(x)∨Q(x))
「全部で P」または「全部で Q」なら、各 x で確かに「P または Q」だからです。誤答は、この成り立つ向き(⇐)ではなく、成り立たない逆向き(⇒)を使ってしまった、というのが誤りの正体です。
同じ問題に「分配できる ∧」が隠れている
おもしろいのは、分配してよい場合も同じ問題に顔を出していることです。P(x) 自身は連立、つまり論理積でした。
P(x): (ax+b≥0)∧(ax+c≥0)
こちらを ∀ で受けるときは、
∀x, ((ax+b≥0)∧(ax+c≥0))⟺(∀x, ax+b≥0)∧(∀x, ax+c≥0)
と、∀ を ∧ には自由に分配できます。両方を全 x で要求するのと、各々を全 x で要求するのは、同じことだからです。同じ問題の中で、∀ は内側の ∧ には分配できるのに、外側の ∨ には分配できない。この問題ならではの対比です。
場合分けは「∀ の分配」ではない
正しい解答も、最後は
(a=0 かつ bc≥0) ∨ (a=0 かつ b=c)
という論理和の形になりました。「∀ を ∨ に分配してはいけないと言ったのに、答えが論理和なのは矛盾では」と気になるかもしれません。しかしこれは分配とは別物です。
場合分けがしているのは、つねに正しい a=0∨a=0 で2通りに割ることです。式にすると
⟺∀x, (P(x)∨Q(x))(a=0 ∧ ∀x, (P(x)∨Q(x))) ∨ (a=0 ∧ ∀x, (P(x)∨Q(x)))
となります。注目したいのは、∀x, (P(x)∨Q(x)) が両方の枝にそっくりそのまま残っていることです。∀x は ∨ の中へ割り込んでいません。そのうえで、左の枝では a=0 から ∀x, (P∨Q) が bc≥0 に、右の枝では a=0 から b=c に変わり、(a=0∧bc≥0)∨(a=0∧b=c) に至ります。
これに対して誤答は
∀x, (P(x)∨Q(x))⟶(∀x, P(x))∨(∀x, Q(x))
と、∀x, (P∨Q) そのものを割って ∀x を内側へ送り込んでいます。割っている文字が違うことに注意してください。場合分けで ∨ にしているのは、求めたいパラメータ a(∀ に縛られていない自由な文字)についての排反な2通りで、これはいつでも安全です。一方、誤答が ∨ に分配しようとしたのは ∀ が縛っている x で、こちらは許されません。
同じ論理和でも、枠ごと保つ前者と中身を割る後者は、まったく別の操作なのです。
Theme3 との双対
量化記号と結合子の組み合わせを並べると、次のようになります。
∀x, (p∧q)∀x, (p∨q)∃x, (p∧q)∃x, (p∨q)⟺(∀x, p)∧(∀x, q)⟸(∀x, p)∨(∀x, q)⟹(∃x, p)∧(∃x, q)⟺(∃x, p)∨(∃x, q)
∀ と ∧、∃ と ∨ は相性のよい組み合わせで、⟺ で自由に行き来できます。「すべて」と「かつ」はどちらも全部そろうことを求め、「ある」と「または」はどれか一つあればよい——求めるものの性質がそろっているからです。一方、相手の違う ∀ と ∨、∃ と ∧ は一方向だけ。Theme3 の主役は 3 行目(まとめた側 ⇒ 分けた側)、今回の主役は 2 行目(分けた側 ⇒ まとめた側)で、成り立つ向きがちょうど逆になっています。
そして「どちらの選言肢が効くかは x ごとに変わってよい」というこの感覚は、次の Theme5 へまっすぐ続きます。x の取り方ごとに相手を選び直してよいのか、それとも一つで全部を賄わなければならないのか——量化記号を二つ重ねたときの、順序の話です。