数学
2026.06.27

論理学で学ぶ数学 Theme4

01

問題

「すべての実数 xx に対して (ax+b)(ax+c)≥0(ax+b)(ax+c)\ge 0 が成り立つための実数 a,b,ca,b,c の条件を求めよ」という問題に、次の解答があった。

(A) すべての実数 xx に対して (ax+b)(ax+c)≥0(ax+b)(ax+c)\ge 0 が成り立つ。

(B) これは、すべての実数 xx に対して

{ax+b≥0ax+c≥0または{ax+b≤0ax+c≤0\begin{cases} ax+b\ge 0\\ ax+c\ge 0 \end{cases} \quad\text{または}\quad \begin{cases} ax+b\le 0\\ ax+c\le 0 \end{cases}

が成り立つことと同値である。

(C) したがって、

∀x∈R, {ax+b≥0ax+c≥0\forall x\in\mathbb{R},\ \begin{cases} ax+b\ge 0 \\ ax+c\ge 0 \end{cases}

が成り立つか、または

∀x∈R, {ax+b≤0ax+c≤0\forall x\in\mathbb{R},\ \begin{cases} ax+b\le 0 \\ ax+c\le 0 \end{cases}

が成り立つことと同値である。

(D) そのためには

{a=0b≥0c≥0または{a=0b≤0c≤0\begin{cases} a=0\\ b\ge 0\\ c\ge 0 \end{cases} \quad\text{または}\quad \begin{cases} a=0\\ b\le 0\\ c\le 0 \end{cases}

が成り立つことが必要十分である。

(E) これらをまとめて、求める条件は a=0, bc≥0a=0,\ bc\ge 0 である。

この解答には誤りがある。間違っている部分を指摘してその理由を明らかにし、正しい解答を書け。

02

答案

誤っているのは (C) である。

P(x): {ax+b≥0ax+c≥0,Q(x): {ax+b≤0ax+c≤0P(x):\ \begin{cases} ax+b\ge 0 \\ ax+c\ge 0 \end{cases} ,\qquad Q(x):\ \begin{cases} ax+b\le 0 \\ ax+c\le 0 \end{cases}

とおく。(B) は

∀x∈R, (P(x)∨Q(x))\forall x\in\mathbb{R},\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr)

であり、(C) は

(∀x∈R, P(x))∨(∀x∈R, Q(x))\bigl(\forall x\in\mathbb{R},\ P(x)\bigr)\lor\bigl(\forall x\in\mathbb{R},\ Q(x)\bigr)

である。(B) から (C) への変形は

∀x, (P(x)∨Q(x))  ⟹  (∀x, P(x))∨(∀x, Q(x))\forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr) \;\Longrightarrow\; \bigl(\forall x,\ P(x)\bigr)\lor\bigl(\forall x,\ Q(x)\bigr)

を用いているが、これは一般には成り立たない。

実際、a=1, b=c=0a=1,\ b=c=0 のとき、各実数 xx に対し x2≥0x^2\ge 0 より P(x)∨Q(x)P(x)\lor Q(x) は成り立つから (B) は真である。一方

∀x∈R, x≥0も∀x∈R, x≤0\forall x\in\mathbb{R},\ x\ge 0 \qquad\text{も}\qquad \forall x\in\mathbb{R},\ x\le 0

もともに偽だから (C) は偽である。よって (B) から (C) への変形は誤りである。

以下、正しい解答を与える。求める条件は

∀x∈R, (ax+b)(ax+c)≥0\forall x\in\mathbb{R},\ (ax+b)(ax+c)\ge 0

である。展開して

(ax+b)(ax+c)=a2x2+a(b+c)x+bc(ax+b)(ax+c)=a^2x^2+a(b+c)x+bc

を xx の式とみる。

(i)(\mathrm{i}) a=0a=0 のとき。(ax+b)(ax+c)=bc(ax+b)(ax+c)=bc(定数)であるから、すべての実数 xx に対し ≥0\ge 0 となる必要十分条件は

bc≥0bc\ge 0

である。

(ii)(\mathrm{ii}) a≠0a\ne 0 のとき。a2>0a^2>0 だから上の式は xx について下に凸な二次式であり、判別式を DD とすると

D=(a(b+c))2−4a2bc=a2((b+c)2−4bc)=a2(b−c)2\begin{aligned} D&=\bigl(a(b+c)\bigr)^2-4a^2bc\\ &=a^2\bigl((b+c)^2-4bc\bigr)\\ &=a^2(b-c)^2 \end{aligned}

である。下に凸な二次式がすべての実数 xx で ≥0\ge 0 となる必要十分条件は D≤0D\le 0 であるから

∀x∈R, (ax+b)(ax+c)≥0  ⟺  D≤0(∵a2>0, 下に凸)  ⟺  a2(b−c)2≤0  ⟺  (b−c)2≤0(∵a2>0)  ⟺  b=c(∵(b−c)2≥0)\begin{aligned} \forall x\in\mathbb{R},\ (ax+b)(ax+c)\ge 0 &\iff D\le 0 \quad(\because a^2>0,\ \text{下に凸})\\ &\iff a^2(b-c)^2\le 0\\ &\iff (b-c)^2\le 0 \quad(\because a^2>0)\\ &\iff b=c \quad(\because (b-c)^2\ge 0) \end{aligned}

を得る。実際、b=cb=c のとき (ax+b)(ax+c)=(ax+b)2≥0(ax+b)(ax+c)=(ax+b)^2\ge 0 で条件を満たす。

以上 (i)(ii)(\mathrm{i})(\mathrm{ii}) より、求める条件は

(a=0 かつ bc≥0) ∨ (a≠0 かつ b=c)(a=0\ \text{かつ}\ bc\ge 0)\ \lor\ (a\ne 0\ \text{かつ}\ b=c)

である。

03

Point

今回の主役は、量化記号 ∀\forall を論理和 ∨\lor・論理積 ∧\land に対してどう動かせるか、です。Theme3 で見た「∃\exists は ∧\land に分配できない」の、ちょうど裏返しにあたります。

∀\forall は ∨\lor に分配できない

誤答は

∀x, (P(x)∨Q(x))を(∀x, P(x))∨(∀x, Q(x))\forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr) \qquad\text{を}\qquad \bigl(\forall x,\ P(x)\bigr)\lor\bigl(\forall x,\ Q(x)\bigr)

と書き換えました。

前者は「各 xx ごとに、P(x)P(x) か Q(x)Q(x) のどちらかが成り立てばよい」という意味です。どちらが効くかは xx によって入れかわってかまいません。後者は「すべての xx で一様に PP」か「すべての xx で一様に QQ」のいずれか、というずっと強い主張です。

今回は xx の符号で ax+b, ax+cax+b,\ ax+c の符号が入れかわりうるので、xx によらず一方に固定する後者は成り立ちません。答案の a=1, b=c=0a=1,\ b=c=0 がその実例でした。各 xx で都合よく ≥\ge と ≤\le を使い分けてよいかどうかが、両者を分けています。

反例 a=1,\ b=c=0 のとき。各条件が真(T)の範囲を色つきの太線、偽(F)の範囲を破線で示す。P,Q は単独では F の範囲が残るため \forall x,P・\forall x,Q はともに偽だが、各 x で先に \lor をとった P\lor Q は全域が真。

成り立つ向きは一つだけ

とはいえ、両者は無関係ではありません。一方向だけは常に成り立ちます。

(∀x, P(x))∨(∀x, Q(x))  ⟹  ∀x, (P(x)∨Q(x))\bigl(\forall x,\ P(x)\bigr)\lor\bigl(\forall x,\ Q(x)\bigr) \;\Longrightarrow\; \forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr)

「全部で PP」または「全部で QQ」なら、各 xx で確かに「PP または QQ」だからです。誤答は、この成り立つ向き(⇐\Leftarrow)ではなく、成り立たない逆向き(⇒\Rightarrow)を使ってしまった、というのが誤りの正体です。

同じ問題に「分配できる ∧\land」が隠れている

おもしろいのは、分配してよい場合も同じ問題に顔を出していることです。P(x)P(x) 自身は連立、つまり論理積でした。

P(x): (ax+b≥0)∧(ax+c≥0)P(x):\ (ax+b\ge 0)\land(ax+c\ge 0)

こちらを ∀\forall で受けるときは、

∀x, ((ax+b≥0)∧(ax+c≥0))  ⟺  (∀x, ax+b≥0)∧(∀x, ax+c≥0)\forall x,\ \bigl((ax+b\ge 0)\land(ax+c\ge 0)\bigr) \iff \bigl(\forall x,\ ax+b\ge 0\bigr)\land\bigl(\forall x,\ ax+c\ge 0\bigr)

と、∀\forall を ∧\land には自由に分配できます。両方を全 xx で要求するのと、各々を全 xx で要求するのは、同じことだからです。同じ問題の中で、∀\forall は内側の ∧\land には分配できるのに、外側の ∨\lor には分配できない。この問題ならではの対比です。

場合分けは「∀\forall の分配」ではない

正しい解答も、最後は

(a=0 かつ bc≥0) ∨ (a≠0 かつ b=c)(a=0\ \text{かつ}\ bc\ge 0)\ \lor\ (a\ne 0\ \text{かつ}\ b=c)

という論理和の形になりました。「∀\forall を ∨\lor に分配してはいけないと言ったのに、答えが論理和なのは矛盾では」と気になるかもしれません。しかしこれは分配とは別物です。

場合分けがしているのは、つねに正しい a=0∨a≠0a=0\lor a\ne 0 で2通りに割ることです。式にすると

∀x, (P(x)∨Q(x))  ⟺  (a=0 ∧ ∀x, (P(x)∨Q(x))) ∨ (a≠0 ∧ ∀x, (P(x)∨Q(x)))\begin{aligned} &\forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr)\\ \iff{}& \Bigl(a=0\ \land\ \forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr)\Bigr)\ \lor\ \Bigl(a\ne 0\ \land\ \forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr)\Bigr) \end{aligned}

となります。注目したいのは、∀x, (P(x)∨Q(x))\forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr) が両方の枝にそっくりそのまま残っていることです。∀x\forall x は ∨\lor の中へ割り込んでいません。そのうえで、左の枝では a=0a=0 から ∀x, (P∨Q)\forall x,\ (P\lor Q) が bc≥0bc\ge 0 に、右の枝では a≠0a\ne 0 から b=cb=c に変わり、(a=0∧bc≥0)∨(a≠0∧b=c)(a=0\land bc\ge 0)\lor(a\ne 0\land b=c) に至ります。

これに対して誤答は

∀x, (P(x)∨Q(x))⟶(∀x, P(x))∨(∀x, Q(x))\forall x,\ \bigl(P(x)\lor Q(x)\bigr) \quad\longrightarrow\quad \bigl(\forall x,\ P(x)\bigr)\lor\bigl(\forall x,\ Q(x)\bigr)

と、∀x, (P∨Q)\forall x,\ (P\lor Q) そのものを割って ∀x\forall x を内側へ送り込んでいます。割っている文字が違うことに注意してください。場合分けで ∨\lor にしているのは、求めたいパラメータ aa(∀\forall に縛られていない自由な文字)についての排反な2通りで、これはいつでも安全です。一方、誤答が ∨\lor に分配しようとしたのは ∀\forall が縛っている xx で、こちらは許されません。

同じ論理和でも、枠ごと保つ前者と中身を割る後者は、まったく別の操作なのです。

Theme3 との双対

量化記号と結合子の組み合わせを並べると、次のようになります。

∀x, (p∧q)  ⟺  (∀x, p)∧(∀x, q)∀x, (p∨q)  ⟸  (∀x, p)∨(∀x, q)∃x, (p∧q)  ⟹  (∃x, p)∧(∃x, q)∃x, (p∨q)  ⟺  (∃x, p)∨(∃x, q)\begin{aligned} \forall x,\ (p\land q) &\iff (\forall x,\ p)\land(\forall x,\ q)\\ \forall x,\ (p\lor q) &\;\Longleftarrow\; (\forall x,\ p)\lor(\forall x,\ q)\\ \exists x,\ (p\land q) &\;\Longrightarrow\; (\exists x,\ p)\land(\exists x,\ q)\\ \exists x,\ (p\lor q) &\iff (\exists x,\ p)\lor(\exists x,\ q) \end{aligned}

∀\forall と ∧\land、∃\exists と ∨\lor は相性のよい組み合わせで、  ⟺  \iff で自由に行き来できます。「すべて」と「かつ」はどちらも全部そろうことを求め、「ある」と「または」はどれか一つあればよい——求めるものの性質がそろっているからです。一方、相手の違う ∀\forall と ∨\lor、∃\exists と ∧\land は一方向だけ。Theme3 の主役は 3 行目(まとめた側 ⇒\Rightarrow 分けた側)、今回の主役は 2 行目(分けた側 ⇒\Rightarrow まとめた側)で、成り立つ向きがちょうど逆になっています。

そして「どちらの選言肢が効くかは xx ごとに変わってよい」というこの感覚は、次の Theme5 へまっすぐ続きます。xx の取り方ごとに相手を選び直してよいのか、それとも一つで全部を賄わなければならないのか——量化記号を二つ重ねたときの、順序の話です。

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