論理学で学ぶ数学 Theme5
問題
を実数の定数として、実数 についての条件
を考える。次の各文が成り立つための の値の範囲を求めよ。
(1) どんな に対しても、それぞれ適当な をとれば、 が成り立つ。
(2) 適当な をとれば、どんな に対しても、 が成り立つ。
答案
とおく。このとき
である。
(1)
求める条件は
である。
を固定する。区間 が空でないこと、すなわち が、その内部に が存在する条件であるから、
である。したがって
は について下に凸な二次式である。その判別式を とすると、
下に凸な二次式がすべての実数 に対して正となる必要十分条件は であるから、
よって、求める条件は
(2) 解法1
求める条件は
である。すなわち
であるから、
である。
まず、 を固定して、 についての全称条件を処理する。
は について下に凸な二次式であるから、すべての実数 に対して正となる条件は、判別式が負であることである。よって
同様に、
は について下に凸な二次式であるから、
したがって、求める条件は
である。すなわち
である。
このような実数 が存在する条件は
であるから、
よって、求める条件は
(2) 解法2
求める条件は
である。すなわち
であるから、
である。
ここで、
は、 の最大値が より小さいことと同値である。また、
は、 が の最小値より小さいことと同値である。したがって、求める条件は
である。
を平方完成すると、
よって
また、 を平方完成すると、
よって
したがって、求める条件は
である。
このような実数 が存在する条件は
であるから、
よって、求める条件は
Point
今回の中心は、量化子 の順序です。
と は違う
(1) の条件は
です。これは、「 を先に決める。そのあとで、その に応じて を選んでよい」という意味です。
したがって、 は ごとに変わってかまいません。今回なら、各 に対して
を満たす が存在すればよいので、
をすべての について調べればよいことになります。
一方、(2) の条件は
です。これは、「先にひとつの を決める。その同じ で、すべての に対応しなければならない」という意味です。
したがって、 を に応じて変えることはできません。
見た目は似ていても、
は一般には別の意味になります。
内側の量化子から処理する
(2) の解法1では、
を、内側にある から処理しました。
まず
を、 を固定したまま の二次不等式として調べます。これにより
が得られます。
同じように
を処理すると、
が得られます。
つまり、はじめは についての条件だったものが、
という、 についての存在条件に変わります。最後に、このような が存在する条件を調べれば、 だけの条件になります。
このように、量化子が重なっているときは、内側の変数から順に消去していくと機械的に処理できます。
ここでの は分けてよい
ひとつ確認しておきます。いまの処理では、
を
に分けてから、 側と 側を別々に処理しました。Theme3・4 では「分配できない」例ばかり見てきたので気になるところですが、これは許されます。Theme4 で見たとおり、 は には分配できるからです。各 で2つの不等式がともに成り立つことと、一方が全 で成り立ち、かつもう一方も全 で成り立つことは、同じことです。
最大値・最小値で読む
(2) の解法2では、同じ処理を最大値・最小値で読み替えました。これは Theme3 でやったことの裏返しです。
Theme3 では、「ある で 未満にできる」を「とりうる値の一番低いところが 未満」と読み、 を で書き換えました。今回必要なのはその双対です。すなわち、
とは「 がどの値をとっても より小さい」、つまり「一番高いところすら より小さい」ということですから、
と読めます。 を で読むなら、 は で読む。一番高いところさえ届かなければどこも届かない、という理屈で、Theme3 と上下が反転しているだけです。
同じく、
です。こちらは が下から を抑える側なので、 の一番低いところ が基準になります。
よって、(2) の条件は
と読めます。このような が存在するためには、
であればよいわけです。
解法1は「量化子を順に消す」方法、解法2は「全称条件を最大値・最小値で読む」方法です。どちらも同じことをしていますが、前者は機械的、後者は見通しがよい、という違いがあります。
同じ であること
(2) で大切なのは、
の が同じ文字だということです。
Theme3 の「同じ 」と同じことが、ここでも起きています。上の式は、「下限より大きい が存在する」と「上限より小さい が存在する」を別々に言っているのではありません。ひとつの同じ が、両方の不等式を同時に満たさなければならないのです。
言いかえると、
を、 を に分けて
としてはいけない、ということです。Theme3 で「 は に分配できない」と見たその罠が、 について再び現れています。下限を超える はいくらでもあるし、上限を下回る もいくらでもありますが、それだけでは「同じひとつの 」が両方を満たす保証にはなりません。
だからこそ、最後に見るべき条件は
です。これは、実数の開区間
が空でない条件を調べている、と見ることもできます。下限が上限より小さくなって、はじめて両方を満たす が中に入るからです。
成り立つ向きは一つだけ
ここまで (1)(2) を別々に解いてきましたが、二つの答えは無関係ではありません。並べてみます。
ここで は と の内側にあります。実際、
がともに成り立つので、
です。(2) が成り立つ では、かならず (1) も成り立つ。けれども逆はそうではありません。
これは偶然ではなく、量化子の順序がもともと持っている性質です。一般に、
はつねに成り立ちます。すべての に同時に効く が一つあるなら、各 に対しても、その同じ をそのまま使えばよいからです。Theme4 の終わりに触れた、一様か 依存か、という問いの答えがこれで、一様な のほうが強く、 依存の のほうが弱いわけです。
逆向き
は一般には成り立ちません。その反例が、包含のすきま にあります。たとえば をとると、 より (1) は成り立ちますが、 より ですから (2) は成り立ちません。つまり、各 に対しては をとれるのに、すべての を同時に賄う一つの は存在しない。 は真で、 は偽です。
なぜそうなるかは、条件 を絵にすると見えます。 は上に凸、 は下に凸ですから、 を満たす点 は二つの放物線にはさまれた帯です。(1) は「どの でも帯が空でない」、すなわち各縦線が帯と交わること 。(2) は「一本の水平線 が帯ぜんぶを貫く」、すなわち となる高さ があることです。
反例の範囲では、帯はどの でも空でないのに、 の一番高いところ が の一番低いところ を下回りません。しかも と は別々の で起きるので、水平線をどこに引いても、 をよけきれば にぶつかり、 をよけきれば にぶつかる。各縦線では帯に入れるのに、一本の横線では貫けないのです。

順序を入れかえられるとき、入れかえられないとき
最後に、今回の構造を量化子2つの並びとして見渡しておきます。
上の2行は、同じ種類の量化子が並んだ場合です。 どうし、 どうしなら、順序を入れかえても意味は変わりません。同種は交換自由です。
変わるのは3行目、種類の違う と が並んだときだけです。このときは ではなく、 から への一方向しか成り立ちません。一様な が一つあれば各 に使い回せますが、各 ごとに選び直した を一つにまとめられるとは限らないからです。今回ずっと見てきたのは、この3行目でした。